ずいぶん久しぶりのブログ更新となりました。
嫁ぎ先の高知へ来て1年、新鮮なこと、面白いこと、難しいこと、日々いろいろある発見を自分で楽しむだけにとどまり、書ききれずまとめきれずに過ごしていました。
それに、大きな変化として、新しい仕事や暮らしに馴染んで自分の言葉にできるまでにじっくり時間が必要でした。
個人事業主から家族経営へ
主人の家業である工務店を継ぐためにいろいろと準備をして、なんとなくのスタイルを形にするまで1年かかった感じです。
4月に、家業の井上建築を法人化して、株式会社井上建築となりました。
会社の動きは、会社WEBに綴ってますのでよかったらご覧くださいね。
主人が代表になり、義父と私が取締役。家族経営とほぼ変わらない、小さな会社です。
事業承継などうまくやるために色々考えて、会社にすることにしました。
ついに私も経営者です。
会社理念やCIもつくりました。
ここに、井上建築が祖父の代からやってきたこと、これからも続いていくこと、これから新しくやっていきたいこと、いろいろ込められています。
コーポレートメッセージは「木のこころを、人のくらしに。」という言葉にしました。
これについて、その意味を整理しておきたいと思います。
「木のこころ」の3つのお手本
私たち夫婦は二人とも林学を出て、林業や木に関係する仕事をし、志してきた者として建築をやっていくわけですから、やっぱり「木」を大事にしたいというのは自然な流れです。
大事にしたいとは、木のよさとかぬくもりとか?木の大切さ?木へのこだわり?
それらを象徴する言葉として「木のこころ」というのを、3つの書籍やお手本から借りることにしました。
●西岡常一棟梁著「木のいのち木のこころ」
木造建築に携わる者にとってあまりに有名なバイブルである「木のいのち木のこころ」、大学一年生の時には読んでいたと思います。
ここに書かれた、木を組み人を組み建築を作り上げる、山のことも考えてる、本来日本建築の遺伝子に自然に組み込まれてきたその考えや技術を、大事な部分を井上建築でも体現できたらいいな。祖父や父もやってきたはずだ。
●ジョージ・ナカシマ著「木のこころ」
もう一つの、木のこころ。偶然にも同じタイトルなのですが家具デザインの巨匠ジョージ・ナカシマ氏の名著が「木のこころ」です。英語のタイトルは “The soul of a tree”
ここに、木に関わる者のおもしろい心得が書いてあります。
小規模な手工業を営むには、大量生産と競うために、たくさんの帽子(ハット)を身につける必要がある。つまり、次のことが要求される。
1、木材に関して熟達した手仕事を備えた職人気質
2、伝統的工具と進歩的機械の両者に対するすぐれた知識
3、材料と木工技術の知識を基礎にしたデザインに対する直観
4、丸太が倒木を切ったものか立木を伐ったものか判断でき、しかも、切断せずにその中の木目や節斑や玉杢の優美さを「感じとる」ことができる、丸太仕入れの秀れた経験
5、経済と簿記に関する厳格な処理能力
6、木挽職人の仕事を理解し、進んで彼に付き添って、どう丸太を回しすえて切ったら最高に魅力的な板材、一番良いかたち、ぴたりと見合った厚さに切り出せるか、こうした無数の決定を素早く下せる判断力
7、アイデアを適切に図面で表現できる図像化力
8、樹木学(デンドロラジィ)、すなわち樹木の科学に関する知識
9、家具がその環境に適切に関わるよう、建物の室内と形式についての精通
10、接合部にかかる「モーメント」を予知し、失敗の可能性を予見できる、工学と力学の若干の知識
11、天然と人工の乾燥保存状態に関する精通
12、それぞれの木材は色合いと材質の間に深い関係を持っているから、色彩と質感に対する芸術的感覚
これは家具づくりにおける教訓ですが、建築もほぼ同じことがいえると思います。
・・・こんなに色々やらねばならないことがある!
これを、一人で全部ではなく井上建築というチームでできることを目指そう。そういう指針を与えてくれる本です。
●田岡秀昭さんのことば「共想」
主人である井上将太の師匠であり、高知は嶺北で「れいほくスケルトン」という産直住宅を全国に先駆けて作り上げた故・田岡秀昭氏の言葉。製材所の立場から、森の言葉を建築関係者に伝え続けた方です。
私はお会いすることができないままでしたが、田岡さんの映像や資料から、語られた言葉が伝わっています。
とくに印象的なのが「競争よりも『共想』」、という言葉で、この「想」という漢字をよく見れば”木を見る目を支える心”と書いてある、というものです。
将太の人生の師匠である方の言葉。人生を通して林業や木にかかわることになった出発点になった言葉です。
これから私たちが建築の仕事をしていく中で、ずっと見つめていくことになる「木」という素材。そこにはなにか出発点になった心を忘れずに持ち続けていたい。
木のこころは、師匠からいただいた言葉でもあります。
その意味はこれから深まっていく
やはり木材や建築という、分厚い歴史や土台のある産業に携わるからには、歴代の師匠たちや先生方の語ってきたものに根差していく必要があると思います。
基本には忠実に、「当たり前のことを当たり前に」取り組んでいく中で、また自分たちオリジナルの木のこころを1つでも見つけられたらいいのだと思います。
木のこころとは、木に携わる者の心構えという意味はもちろん、適材適所に木をいかしてあげるために読み取るべき木の素質や意志のようなものもあるし、その木にこめられた想いとかルーツとか物語もあるでしょう。自分たちでもまだわかっていない意味があると思います。
巨匠たちが語った重みある言葉を大胆にかかげながら、コツコツとマイペースにやっていきたいと思います。
※素敵な本ですから、ぜひ読んでみてくださいね。